今月のニュース バックナンバー

令和3年11月号

職員だより

文部科学省 総合教育政策局 男女共同参画共生社会学習・安全課

チーム学校安全 リレー投稿 ~奈良県教育委員会における学校安全の取組~

1 はじめに

 奈良県の南部地域を中心に甚大な被害をもたらした紀伊半島大水害から10年の節目となる今年、本県では、この大水害を風化させることなく、復旧・復興を支えた人々に「感謝する」と共に、この災害を教訓として幼児児童生徒の命を守り、災害に強い奈良県になるために「伝え、学び続けること」の重要性を改めて認識しているところです。
 奈良県教育委員会では、紀伊半島大水害の教訓を生かし、学校安全における研修内容の充実、学校安全に係る関係機関や研究会等との連携に力を入れ、災害安全のみならず、交通安全、生活安全を加えた学校安全教育の推進に取り組んでまいりました。
 この度は、文部科学省学校安全ポータルサイト~チーム学校安全のリレー投稿~への執筆の機会をいただきましたので、本県における学校安全の取組の一部を御紹介させていただきます。

2 学校安全教室推進事業

 本県では、教職員の学校安全に対する意識、並びに指導力の向上を目的に文部科学省のお力添えのもと学校安全教室推進事業を受託させていただき、夏期休業中に講習会を開催しています。
 近年は、実習を伴う講習会を意識的に取り入れ、受講いただく先生方が、より意欲的に学校安全への関心を高めていただけるように工夫をしていますので御紹介させていただきます。
 講習の内容は、防災教室講習会、交通安全教室講習会、心肺蘇生法講習会、防犯教室講習会の各講習会です。
 防災教室講習会では、奈良県防災士会や奈良地方気象台と連携し、本県において発生が懸念されている災害について情報共有するほか、災害発生時の対応について実習形式で開催しています。なかでも昨年度は、新型コロナウイルス感染症対策を見据えた避難所の開設について学び、学校現場で身近にある物を活用しながら、どうすれば感染の防止と避難所の開設を両立できるのかを参加いただいた先生方が活発に意見交換しながら、実際に開設準備を進める様子を拝見し、大変心強く感じた事が忘れられません。

令和2年度防災教室講習会(コロナ禍における避難所開設)の様子

 交通安全教室講習会では、奈良県自転車条例の発令に合わせ、安全な自転車の乗り方を子どもたちに指導できる教員の育成を目指し、奈良県警察と連携した、実習形式での講習会を開催しています。実際に自転車を運転して先生方自身が改めて交通ルールや自転車安全利用五則などを理解していないことを痛感し、反省されている姿を拝見する度、より多くの教員に経験していただきたい思いで一杯になります。

令和元年度交通安全教室講習会の様子

 心肺蘇生法講習会は奈良県消防本部の御協力をいただき、実習形式で開催しています。毎年繰り返し参加してくださる先生もおられ、講習会後のアンケートのなかで講習会で学んだことを学校現場に持ち帰り、職員研修の講師として他の教職員に周知してくださっている様子を伺う度に大変うれしくなります。

令和元年度心肺蘇生法講習会(応急手当を含む)の様子

 防犯教室講習会では、毎年奈良県少林寺拳法連盟にお世話になり、護身術の実習による講習会を開催しています。体操着に裸足で老いも若きも一緒になって汗を流しながら護身術を体験し、最後に一番大切なのは逃げること、逃げることが身を守ること。という護身術の極意を学んで帰っていただいています。自分のいのちは自分で守ることを教えるツールとして、護身術のスキルを身につけたことで、「防犯教育に対するアプローチの引き出しが増えた。」という教員の感想を聞く度にうれしく思います。

令和元年度防犯教室講習会の様子

 今年度は、全ての講習会が動画配信による講習会になり、少し寂しく思っていますが、集合形式での実習ができるようになれば、この取組を継続していきたいと思っています。

3 通学路等の安全確保に向けた連携体制の構築について

 平成30年に下校中の児童が被害に遭う誘拐事案が発生し、「登下校防犯プラン」により、地域で連携して子どもの安全を守る事が提唱されてから3年余りの月日が流れ、その間に大阪北部地震によるブロック塀の倒壊、滋賀県大津市で発生した保育園児交通事故、神奈川県での児童殺傷事件など、子どもの通学時における事故や災害、事件が連続して発生し、通学路等の安全確保が喫緊の課題となっています。
 本県では、平成24年に発生した京都府亀岡市の事故を受け、奈良県通学路等安全対策推進会議を立ち上げ、県内全域の各副市町村長と教育長が一堂に会し、通学路等における効果的な交通安全対策について話し合う会議を開催してきました。
 令和元年度からは、この会議の内容に防犯、防災の観点を加え、県内の関係課による連携体制の見直しを行いました。各自治体による「地域の連携の場」の構築に合わせ、県でもこれまでの体制に加えて、防犯や防災の観点に係る関係課がメンバーに加わり、教育委員会がそのまとめ役としての位置づけを担うこととなりました。さらに、今年度は千葉県八街市の事故を受け、組織体制の強化が図られ、知事を議長に各市町村長が推進会議のメンバーに加わりました。あわせて、各自治体が中心となり行っている通学路合同点検に県が同行し、第三者としての意見を述べることで対策必要箇所に対して新しい目線で対策案を検討する事ができるようになりました。
 関係各課や各自治体などとの連携体制の構築と連絡調整は大変な労力と時間が必要ですが、これにより、今年度の本県の通学通園路等に対する安全対策にかかる取組は飛躍的に推進したと感じています。

令和3年度通学路合同点検の様子
令和元年度奈良県通学路等安全対策推進会議の様子
奈良県通学路等安全対策推進会議構成員
4 通学通園路デジタルマップの作成について

 特徴的な取組としては、令和元年に発生した滋賀県大津市の事故を受け、県では国から「未就学児が日常的に集団で移動する経路の交通安全確保の徹底について」の指示が発せられる前に、県独自の取組として、県内の全ての学校(園)における通学通園路及びお散歩経路の一斉点検を実施しました。その中で、全ての学校(園)から通学路のハザードマップを作成してもらい紙媒体での提出をお願いしました。
 これにより、県内全ての教育施設の通学通園路等について、県全体で共有し、各施設が危険と感じている箇所を知ることで対策必要箇所の決定に役立てることが可能となりました。また、今年度は、この通学通園路マップのデジタル化事業を展開しており、今後はデジタル化した通学路マップ上で対策必要箇所に対する対策実施の進捗を管理していく事が可能になります。更に次年度以降は県警察が保有する交通事故発生箇所の情報や、犯罪が多発している箇所などの情報を通学通園路に重ね合わせ、より多くの情報を共有しながら積極的な経路変更を含めた通学路の安全確保に役立てていく予定です。

通学路デジタルマップ(イメージ)
5 おわりに

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策として様々な制限が課せられる中、少しずつではありますが、学校の教育活動にも以前の日常が戻りつつあります。
 ウィズコロナの発想のもと、学校における教育活動を展開していくためには、これまで以上に私たちの意識改革が求められます。
 子どもたちの安全確保についても、これまでの慣例にとらわれず柔軟な発想をもって取組の推進に尽力してまいります。
 今後も、本県への御指導、御鞭撻をよろしくお願いいたします。

(奈良県教育委員会事務局 保健体育課 健康・安全教育係 係長 高田大介)