今月のニュース バックナンバー

令和2年9月号

職員だより

文部科学省 総合教育政策局 男女共同参画共生社会学習・安全課

  9月1日は「防災の日」です。また、8月30日から9月5日までは防災週間です。
  近年、日本各地で豪雨災害や土砂災害による大きな被害が出ています。激甚化・頻発化する自然災害から命を守るには、地域の地形の特徴や過去の自然災害について学び、災害を「自分ごと」として捉えることが重要です。今回は、地域の災害リスクを自然に体感できる「段ボールジオラマ」と、行政機関等が作成した防災資料を活用した授業実践をご紹介します。

楽しみながら居住地域の地形や災害リスクを自然に「体感」できる、段ボールジオラマ

  一般社団法人 防災ジオラマ推進ネットワークが提供する「段ボールジオラマ」は、自分の住んでいるエリアの地図が印刷された段ボールが等高線に沿って取り外せるように作られています。それらのパーツをパズル感覚で積み重ねて、子供でも簡単に組み立てられるジオラマキットです。誰にでもわかりやすいジオラマを自分の手で組み立てることで、楽しく身近な入口から、防災感覚を育てることができます。

<基本的な流れ>

基本的な流れ

●自分の手で組み立てるから興味を持つ

(組み立て作業自体は1時限あれば可能)

  型抜きされたパーツを台紙から外して積み上げていくと、ベースの地形が完成します。自らが作業することで高低差を”体感”できるだけでなく、「自分ごと化」するためのハードルをぐっと下げることができます。


●立体だから、危ない場所も直感的にわかる

  ハザードマップやまち歩きなどの情報をもとに、色を塗ったり旗を立てたり、危険箇所や避難所の位置などをジオラマに落とし込めば、オリジナルの防災マップができます。どの辺りが危なそうか? なぜ危ないのか?を直感的に理解できるのも、立体ならではのメリットです。


●活用はさまざまなシーンで。水を流せるタイプも

  総合的な学習の時間などの授業はもちろん、PTAや地域とのイベントなどでも活用されており、枠に戻して繰り返し組み立てることも可能です。目的によって仕様の相談もでき、あらかじめカラー印刷されたものや、スチレンボード製で水を流せるタイプなどもあります。社会や理科の授業などでも活用できそうです。
  範囲やサイズはオーダーメイドで、費用は地形などにより5~15万円程度とのことです。

(カラー版)
(水を流せるタイプ)

  防災ジオラマ推進ネットワークの上島代表は、東日本大震災からの数年間を過ごす中で、あれだけの経験を経てもなお、自身も含めて「防災行動へのハードル」を下げるのは容易ではないと感じたといいます。防災にこだわらない入口で、防災に留まらない用途で、楽しみながらジオラマに触れることを通じて、結果として防災感覚を身につけてもらえたらと、この活動を続けているということです。

  段ボールジオラマに係る費用は文部科学省・学校安全総合支援事業の経費で支出することも可能です。都道府県・指定都市教育委員会におかれては同事業における活用もご検討ください。


行政機関等が作成した防災資料を活用した、小学校4年生における防災教育の実践(埼玉県坂戸市立入西小学校)

  令和元年の台風第19号により初めて学校が避難所になり、自身も避難が必要になったりすることを経験した小学校教諭の方からお話を伺いました。その時、自身がどのように避難すればよいのか、また、避難先でどう過ごせばよいのか知らないことに気づき、防災教育の必要性を強く感じたそうです。
  小学校では、令和2年度から新学習指導要領が全面実施され、その中には、防災教育につながる事項が具体的に書かれています。

  現在担任されている4年生の学習内容と結び付け、児童に「自分の命は自分で守る」ことを考えてもらえるよう授業実践した様子をご紹介します。

<学習内容>

  社会科の「自然災害からくらしを守る」の単元で、水害を中心とした内容に構成。学習のめあては「自分の命は自分で守ること」を自分ごととして捉え、考えられることに設定。理科の「雨水の行方と地面の様子」の単元とも関連付け、雨が降った時の大地の様子から、水が高いところから低いところへ流れること、水のしみ込み方は土の粒の大きさによって違いがあることを教科横断的に学ぶ。

<授業の進め方>

学習内容と参考資料
〇自然災害って何だろう?
 自然災害の種類と予想される被害を列挙し、自分のまちについて書かれた坂戸市教育委員会作成の社会科副読本を参考にしながら、起こり得る災害を確認し、「水害から身を守るためにはどうすればよいか」という課題を設定
〇水害の様子や防災・減災のための方法を知る
 NHK for school 動画「よろしく!ファンファン[社会小4]」を見ながら、水害の様子や、水害から身を守るためにできることを学習
 昨年度から運用が開始された5段階の警戒レベルについては、内閣府の資料映像(水害編)警戒レベルに関する映像資料を見ながら学習
3 〇ハザードマップの見方を知る
 学区の水害ハザードマップを児童に配布。自宅に印をつけ、浸水想定の高さと、自分はどこの避難所に行くのがいいかを確認
〇マイ・タイムラインをつくる
 坂戸市のHP「マイ・タイムラインをつくろう」を見ながら、マイ・タイムラインを作成。ハザードマップとマイ・タイムラインは自宅に持ち帰り、家の人とも話すように伝える
〇自分のまちの取組を知る
 学校の防災備蓄倉庫の見学をしたり、市のHPを見ながら、防災アプリや安心・安全メール、防災無線など、様々な取組をしていることを知る
〇気象のプロから防災方法を学ぶ
 気象研究所の研究官が解説する NHK for school 動画「学ぼうBOSAI[総合小5~6・中]」を見ながら、空の変化に気づくこと、テレビのニュースや天気予報を見て最新の情報を集めることを確認
〇家庭でできる備えを考える
 家に備蓄しておきたいもの、非常用持ち出しバッグに入れておきたいもの、家を安全にするもの等にグルーピング
〇振り返り
 気象庁のe-ラーニング教材「大雨のときにどう逃げる?」を見ながら、自分のまちで災害が起きた時の避難行動を確認

<授業の様子>

  今回の授業を行った担任教諭によると、子供たちは、令和元年台風第19号、令和2年7月豪雨の被害の大きさから、防災の大切さを教科書上のこととしてではなく、現実のこととして受け止め考えているそうです。今後は、引き続き関連ある単元で教科横断的に防災教育を行うとともに、市の防災担当職員をゲストティーチャーに招いて市の取組について学ぶことができる機会を設けたり、家庭を巻き込んだ取組を行うなどして、4年生の防災教育を確立することを目標としたいということです。